信子は時に高価な洋酒などを御馳走してくれることがあつたが、谷村がわざとからかひ半分に、信ちやんはずゐぶんお金持なんだね。金の蔓はどこにあるのだらうね、とあらはに下卑た質問をあびせても、怒らなかつた。もとより返事もしないが、どんな風な様子でもなかつたのである。
 谷村はずゐぶんズケ/\と信子に話しかけたものだ。
「あんまり美しすぎて誰も口説いてくれないといふ麗人の場合があるさうだけど、信ちやんなんかも、その口かい? でも、ずゐぶん、口説かれたことだらうね。どんな風な口説き方がお気に召すのか、参考までに教へてくれないかね」
「プレゼントするのよ。古今東西」
「あゝ、なるほど。すると、うれしい?」
 信子は答へなかつた。
 谷村は常に、あどけない少女のやうに信子を扱つてきた。事実なかば気質的に、さう思ひこんでゐる一面がある。そのくせ信子を妖女あつかひに、ズケ/\と下卑た質問もするのだが、気質的に少女あつかひにしてゐる面があるものだから、それで救はれてゐるものらしい。
 信子は先天的に無貞操な女だと何か定説のやうなものが流布してゐた。そのなかで、岡本の呪咀の言葉は特別めざましく谷村の頭に焼きつ
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