から始めた道楽で、古代の氏族制度などから、ちかごろでは民族学のやうなことに凝りだしてゐるのであつた。
信子は草骨の家に寄宿してゐた。
草骨夫妻には子供がない。変つた夫婦で、信子をお人形のやうに可愛がり、信子の寝台のカバーのために京都までキレを探しに行つたり、自分達はこはれかけた安家具で平気で生活してゐるくせに、信子の居間と客間のために北京から家具を取り寄せてやつたり、西陣へテーブルクロースを注文したり、ずゐぶん大金を投じたものだ。そのくせ、さほどのお金持ではないさうで、地方の旧家の出であるが、田畑も売りつくし、いくらかの小金があるばかり、死ねばいらない金だからと云つて、信子の部屋を飾るために大半投じたといふ話であつた。信子はこの美しい居間で、暇々に、草骨の蔵書整理をやり、目録をつくつてゐた。だから信子の居間には、凡そこの居間に不似合ひな百冊ほどの古風な本が、いつも積まれてゐるのであつた。
信子は二十六になつてゐた。谷村が信子を知つたのは、まだ二十のあどけない時だつた。それから数年、さのみ近しい交りもないが、そのくせ会へば至極隔意なく話のできるのは、二人の気質的なものがあるらしい。
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