じてゐるのさ。岡本先生は最も貪慾な女体の猟犬だが、信ちやんからは女体の秘密を嗅ぎだせずに、たゞ魂の影だけを掴んだ。先生にとつては、如何ほど貞淑高潔な女体も、秘密のある女体でしかない。尤もそれは僕にとつても、先生と同じ意見だけれどもね。その先生も、信ちやんからは、女体の秘密をつかみ得ず、天性の犯罪者だと言ふのだ。天性の犯罪者とは、どういふことだらう? 僕は先生に訊いてもみず、訊く気持も持たないから、先生の言ふ本当の意味は分らない。たゞ、この言葉の属性で疑ふべからざることの一つは、永遠の孤独者といふことだ。人は誰しも孤独だけれども、肉体の場に於て、女は必ずしも孤独ではない。女体の秘密は、孤立を拒否してゐるものだ。孤立せざるものに天来の犯罪などは有り得ない。だから、僕は思ふ。信ちやんには、女体がない、と。女が真実を語るのは、言葉でなしに、からだでだ。魂でなしに、女体でだ。女体がなければ、女は、永遠に、真実を語らない。信ちやんは、永遠に、真実を語りうる時があり得ない」
谷村はもつと残酷に言ひ得ることを知つてゐた。それは岡本の天性の犯罪者といふ意味に就いてゞあつた。けれども彼は甘い屁理窟と讃辞
前へ
次へ
全37ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング