と重ねて云うのです。
「ここのどこが気に入ったんです」
「あなたがそんなふうに仰有《おっしゃ》るからよ。私あんまりパッとしたところで働きたくないんです」
「あなたがパッとしすぎてるからさ。ここじゃア、しかし、どうも、ねえ。あなただけパッとしすぎて、ここの客が寄りつかなくなッちゃうよ」
 まったく見るからにパッとした存在でした。ミナリだって渋くて上等なものでした。一見して家柄を感じさせるような気品があって、それで目がさめるほど美しいのですから、パッとしすぎてここの客がよりつかなくなるというのも云いすぎではありません。この人がまた意地ッぱりで、とうとうここに働くことになったばかりでなく、まる二年ここに落着いてるんですから、まったく妙な話です。トオサンはカンバンになってイヤな客が小夜子サンを送って出そうな気配があると、ぼくに目配せして、
「小夜子サンを送ってあげな。ねえ、小夜子サン。今夜は龍ちゃんに送らせて下さい」
 こう云ったものです。万一のことがないようにと気をつかってのことです。イヤな客にはハッキリと、
「今夜は龍ちゃんが小夜子サンを送りますから、あなたはひきとって下さい」
 などとズ
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