した。小夜子サンにジャンジャンチップをやったあげくのドロンですから、胸がおさまらなかったのでしょう。
 その晩、日野が八千代サンをともなって来ていたのです。セラダはこの店ですでに何回も八千代サンを見かけその素姓も知っていたのですが、小夜子サンというものがあるのですから、ヒロポン中毒のチンピラ女流詩人にはハナもひッかけなかった次第です。
 しかるにこの晩見直してみると、なかなか可愛い娘です。全然ミナリをかまわない娘ですから見るからにヤボな女学生姿ですが、それだけに磨けば光る麗質はむきだしに目をうち、磨いた場合の想像であれこれ逞しく色気を味うことができました。
 彼はサントリーのハイボールを二ツ持って日野と八千代サンのテーブルへわりこみました。ウチは座敷のほかにテーブル席も、スタンドもあるのです。といっても極めてチッポケな店で、ナワノレンに毛の生えた程度、その毛もなるべく過少に考えた方がマチガイが少いでしょう。セラダは八千代サンにハイボールを献じましたが日野にはやりません。遠慮なく彼女の左手を握って、
「ネ、八千代サン。のんで下さい。ワタクシ、アナタ、好きです」
 八千代サンもセラダに劣ら
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