だ、わるい奴だ、と自分を責めつづけていましたし、小夜子サンの病気中も、オレがわるい、オレがわるいと自分自身を叱りながら小夜子サンの足をもみ、額の汗をふいてやり、一時も休まずに身も心も使っていたのです。
小夜子サンは熱につかれてウトウトし、ふと目がさめると、いつもそこにトオサンがいるので、うれしく思いました。いつも真剣にジッとひかえているのです。それはほとんど有りうべからざるような珍しい現象として小夜子サンをたのしませ、ふと目がさめるのがたのしみになったほどですが、あるいは寝ている最中に口笛を吹くと夢の中にトオサンがでてくるのではないかなぞと考え、トオサンと忠犬を混同して考えるような失敬な空想にふけることが多かったのです。
この最中に、東京は東京で異変が起っていたのでした。
★
阿久津の店の者たちはトオサンと小夜子サンの行方不明をさほど心配しませんでした。トオサンが苦心と熟慮のあげく小夜子サンをかくまっているのかも知れないねという見方の方が強く、感傷旅行というような考え方はトオサンと恋仇のぼくですらおかしくて考えられないほどでした。
しかし、セラダは怒りま
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