よ」
と小夜子サンは説明してきかせましたが、トオサンは吹きつける波のシブキとミゾレの寒さ痛さと闘うのに必死で、感傷以下に衰弱しきっていたのです。気マグレな茶のみ友達と歩くのも容易なことではありません。
「この海なら、とびこむとたんに死んじゃうわ」
と小夜子サンが突然すごいことを云いました。風に顔をそむけてその言葉だけ聞いたトオサンは、ウムその気か、もう仕方がない、よし死のうと悲痛にもはやまって心を決したほどでしたが、実は小夜子サンがトオサンの勇気をひきたてるための冗談だったのです。
「ウーム。私の血の匂いがする」
と小夜子サンは平気で荒海の吹きすさぶ風を吸ってなつかしがっていました。それから宿へ帰って、二人はとりいそぎコタツにしがみついた次第です。
「茶のみ友達ッて、どんなことをするの」
小夜子サンはこう云ってトオサンをからかったものです。トオサンもこれにはいたくてれまして、
「どうも、ね。今回が開校式で、かいもくメドがつかねえなア。とにかく今日の茶のみ話は寒かったね」
「トオサン、返事もしてくれなかったわ」
「あれでいいんだよ。茶のみ話てえものはね、あまり言葉なぞ用いねえ方が
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