まうまでもないような妙な事が起りました。小夜子サンがトオサンを誘いだして二人で行方不明になったのです。
 セラダは所持金が少くなったから、一そうヤケに札をクシャ/\わしづかみにして小夜子サンにチップをはずみました。おかげで小夜子サンはちょッとした成金気分になって、ナギナタ二段嬢なぞもコンパクトやセーターなぞおごってもらい、彼女が実はナギナタよりもコンパクトが好きであったことなぞが実証されて浮世には意外に怪異が少いことなぞも納得せざるを得なかったのです。
 成金気分の結果として小夜子サンは職業上の習性に反逆しツバメをつれて旅にでてみたいような誘惑にかられたのかも知れません。トオサンに向って銀座へ映画を見に行きましょうと誘ったのは、銀座の一語によってトオサンの調理場装束を脱がせる策略にほかならなかったのです。
 結局二人は銀座ではなく、大きな山脈をつきぬけて、日本海の海岸へでてしまいました。そこは直江津という海岸でした。晴れていれば佐渡も見えるはずでしたが、暗い雲が海をもせまくとじこめて浜にも海にもミゾレが降っていたのです。
「私の祖先の土地なのよ。オジイサンの代までこの海岸に住んでいたの
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