い」
「むろん信じているよ」
「じゃア、そうしなさいとトオサンにすすめているんだね」
「すすめているッていうわけじゃないよ。ぼくだってニセ貴族を仕立てるについて法本に相談をうけたとき、ぼくはそういうことはできないと答えたことはキミにも話をしたじゃないか。貴族に心当りがあればとにかく、ニセ貴族を仕立ててまでッてのは、なんとなくバカバカしいような気がしたことは確かだからね」
 結局日野は言葉を濁して、次第に話をウヤムヤにしてしまったのです。それをトオサンにすすめるツモリかと返答をせまられた結果がそれです。ぼくをノラリクラリ云いのがれてあざむくことは平チャラでも、トオサンをあからさまには裏切れないのです。つまりタダメシを裏切ることができないのでした。そしてそれをぼくに見破られたことなぞは平気なものです。
 トオサンはぼくらの議論がのみこめなかったようです。そして甚だ腑に落ちないながらも、ニセ貴族の邸内に小夜子サンをかくまう話がウヤムヤになったらしいのをさとりました。希望の燈が消えたわけです。急に不キゲンになってコソコソと消えるようにひッこんでしまったのです。
 ところが次に、小夜子サンをかく
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