げる怒りを押えて奴の顔を睨みつけていたのです。
小夜子サンをかくまうには元貴族が安全だとは、ふざけているではありませんか。我々の場合、かくまうとは隠すことです。隠すに元貴族も元宮様も必要があるものですか。必要なのはゼロやXだけではありませんか。いわんや、わざわざ元貴族のニセモノをつくって、そこにかくまうとはナンセンスにすぎません。
法本は冷血な悪魔です。たくらみだけで生きてる奴です。もっとも、ぼくも同じようなものですし、客商売のぼくらの場合、人殺しでもお客はお客、人を殺して盗んだ金でもお金はお金、よけいなことは考えません。けれども、こと小夜子サンの場合は別で、商売とは別個のぼく個人の問題でもありますから、黙って見ているわけにはいきません。
元貴族のニセモノを仕立てて小夜子サンをかくまうなぞとはトオサンをだましてていよく小夜子サンを誘拐する手段にすぎないということは、日野の奴むろん承知の上で云ってるのです。奴がニヤニヤ笑っているのはトオサンの味方の顔なのか、法本の味方の顔なのか。どっちを裏切るつもりなのか。双方裏切ることだって奴めは至極平気なのです。なぜなら奴はその裏切りが裏切りと
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