して通用しないことを知ってるからです。ただニヤニヤと笑いながら、しかも酒に酔っぱらって、法本がニセの貴族を仕立てて小夜子サンをかくまう計画をもっているよともらしただけでは一応誰を裏切ることにもならないばかりでなく、むしろ双方から味方と思われる可能性の方が多いことも計算に入れているのです。場合によっては、そんな風に云い逃れの可能性もあることを計算の上の仕事なのです。
 ぼくに見破られていることに気附くまで、ぼくは何分間も奴めの顔を睨みつづけていました。奴めはいちはやく気がついた様子でしたが、対処の策が定まるまで気づかないフリをしていました。彼は急に慌てたフリをして、顔を赤らめ、
「法本はとても良い人なんだ」
 と云いました。そこでぼくは意地わるく、
「キミは法本はわるい人だと云うべきか、よい人だと云うべきかと考えた上で、よい人だという方を選んだんだね。キミは法本に味方する気だね、ぼくたちよりも」
「そんなことはないよ。ぼくは純粋に法本を信じてるんだ。彼は当代の人物だよ」
「するとぼくやトオサンはどうなんだ。当代の人物のギセイになってもいいような、とるにも足らぬ人物か」
「そんな云い方はよ
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