うじゃないか」
「ぼくの元貴族の肩書ぐらいじゃ、その細工に助力できる力はないなア。先生の手腕で、いいようにやっとくれよ」
「そうかい。それじゃア、ま、このことは他言は絶対無用だぜ」
法本はこう日野に念をおしたそうですが、以上はまア法本一流の伏線、小細工と申すものです。小夜子サンかどわかしの場合の要心と、またこのように釣糸をたれてみて、魚のグアイをさぐるような意味もあった次第です。
日野はそのころ時々金まわりのよいことがあってウチでメートルをあげることがありましたから、果せるかな酔っぱらって、このことをトオサンやぼくに語ったものです。これをきいて膝をうって喜んだのはトオサンでした。
「さすがは法本サンだねえ。元貴族とはいいところへ目をつけるよ。元宮様ならこれに越したことはないが、数が知れてるから細工がきかねえや。さっそく法本サンの智恵をかりて小夜子サンを安全地帯へ移そうじゃないか」
ぼくはその時ジッと日野の顔を見ていました。トオサンの言葉なぞは聞かなくたって判っています。日野の奴はなおさらでトオサンがポンと膝をうつことまで承知の上で云ってるのです。こやつどこまで正気かとぼくはこみあ
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