。小夜子サンを手ッとりばやくかどわかすには、セラダの生きているうち、トオサンやぼくらが小夜子サンが身を隠すのを期待しており、つまり彼のかどわかしに嬉々として協力の情熱を惜しまぬ時期に限るようです。セラダが死んでからでも小夜子サンをモノにする時間も機会もあるでしょうが、それには金も時間もかかって、決して賢者のとるべき道ではなかったのです。
 法本は日野をよんで、こんな風に相談をもちかけたのでした。
「キミの親戚の元貴族に小夜子サンをかくまってくれて、セラダのピストルや小坂信二の硫酸から守ってくれるようなヤンゴトナキ大人物はいないかなア」
「そんなものはいやしないよ。元貴族なんてみんな落ちぶれて大方人の脛をかじる方が商売なんだもの、これぐらいタヨリにならないのは今どきめッたにありやしないよ。第一、彼らは勘定高くって、およそ人助けには縁のない利己主義者なんだ」
「しかし、元貴族というのはセラダや小坂に対してはニラミがきくと思うんだがね。かりに隠れ場所が分っても彼らはにわかに手をだしかねると思うんだよ。だから、実際にそういう貴族が存在しないとしたら、ぼくらの手でそれらしい人物をつくりあげてみよ
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