な女の心当りは探してみるとないもので、実に弱りました。トオサンはそれとなく小夜子サンにも当ってみて、
「一時身を隠してみては」
「御心配はうれしいんですけど、私、まだ、なんとなくヤブレカブレよ。熱海でアドルムのんだことだって、もう後悔もしていないんです。ピストルでズドンと無理心中なんて、考えても感じ良くは思いませんが、なんとかなるような気もするし、なんとかできない場合にはそれまでということになっても構やしないやという気分もあるんです。心配しないでちょうだいね」
 変にサバサバしているのです。それが、どうも、無理にしているようなところがミジンもなくて、明るくホガラカにサバサバしているのですから、手がつけられない気分にさせられてしまうのです。
 トオサンやぼくたちのこの気分に目をつけたのは法本でした。奴めも商売を忘れることのない人物ですから、セラダに利用価値がありと見ているうちはセラダの女を失敬するような青くさいことはしッこないのですが、法本だって木石ではありませんから、かほどの麗人に心の動かぬ道理はありません。
 セラダの命数も、彼の計画によれば、一ヶ月とは持たないはずになっていたのです
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