のです。それに彼はにわかに慌しく危い綱渡りを急がねばならないほどつまってもいませんでした。
 その場は冗談でまぎらして、いずれ宝石商の鑑定をうけた上でというような商談だけでその日は話を打ちきりました。彼はさっそく宝石商の鑑定をうけて全部で二百万が精一パイという程度の品物にすぎないことを知りましたが、まだ鑑定の結果がハッキリしないからとセラダにはごまかしておいて、セラダが金をサイソクにくるたび二万三万ぐらいずつ与えて、その日はワリカンでウチで遊んだりしていました。
 その間に、それとなくセラダの口からセラダの秘密をたぐりだそうと、精密機械のような、そして相手には絶対に感づかれないような心理的な方法で苦心探究していたようですが、それはどうやらムダに終ったようです。悪党は相手を見て要心します。その点セラダはタダのネズミではなかったのです。また知り合いの二世からセラダの素姓をたぐりだそうと努めてみたとのことですが、この方も彼の秘密にまでふれることは全然不可能だったようです。ただ彼が知り得たことで重大なのは、セラダには二世に親友がないこと、彼が二世たちにも秘密くさいウサンな人物と見られており、う
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