くウチへやってきました。このドサクサに自動車を売りとばす必要があったらしく、テクでやって来ましたが、その翌日の夕方にはもう別の立派な自動車で乗りつけて、例によってブーブーとやけに鳴らしておいてから重々しく乗りこんできました。
 セラダはいよいよ金につまったらしく、どこかに隠しておいた貴金属類十ポンドほどを法本の事務所へもちこんで現金にかえてくれるようにたのんだそうです。
「まさか日本で仕事をした品物じゃないだろうね」
 と法本がききますと、セラダはニヤリと笑って、それには答えず、
「ネエ、腕ききの若い社長サン。ボクと日本でコレやらない? キミ相手みつける。ボク、やる。フィフティ、フィフティ(半分半分)」
 ホンモノのピストルをとりだしてギャングのマネをしてみせたそうです。
 このときすでに法本は彼が法によって死の崖にまで追いつめられているらしいのを日野の報告で聞いていました。まさか、とタカをくくっていたわけでしたが、この一言にただならぬ何かがこもっているのを見て、さては根のない噂ではないと直感したとのことです。
 しかし法本は用心ぶかい男です。自分の直感を信じることを急ぐ男ではなかった
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