しろ暗いことがあってついに自殺するに至るのが別にフシギではないように見られているという事実でした。法本にとっては、それだけでも充分であったのでした。米軍ですら証拠がつかめないようなことを自分の手で突きとめることができようなぞとは思ってもみない男でした。
法本はセラダに自殺させることを計画していたのです。もっとも本当の自殺ではありません。一しょにギャングをやって、しかる後、殺しておいて自殺と見せかけることです。
セラダは心中失敗後、コリもせずまた小夜子サンを口説きはじめて、うむことを知りませんでした。
小夜子サンに本当の愛情がないこと、自分にも愛情がなかったように、小夜子サンが心中したのも当人の都合だけによることだとは知りきっているセラダでしたが、この先生にとってはそんなことは問題ではないのです。人間が生きるとか死ぬとかに愛だの心のツナガリだの理解なぞということが必要だなぞとは考えたこともないらしいです。この先生が信じているのは人生にはネゴシエーションという軸があって、妥協とか示談という完全な共同作業が成立する。要するに女の口説もネゴシエーションです。
しかしセラダのネゴシエーシ
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