ぎやしないかという懸念がありました。
 こういう心境をはじめて耳にして面くらわない人が世間にたくさんいようとは考えられませんが、小夜子サンも返答に窮していると、トオサンは苦心のあげく自分の言うべき言葉をさがしまとめて、
「私は自分が卑怯だから、すでに自分の女房と名のつくものに、また自分の子供もある女に、お前さんも遠慮なく間男するがいい、そして私とは茶のみ友達の本当の愛人同士でいようじゃないかということは云いきれないのだね。そう云うべきかも知れないと思うことはあるのだが、どうしてもそれが云えない。それはもういったん世間なみの女房亭主という関係になって肉体の交りも結んで子までできてしまったから云えないのだと自分に云いきかせもしてみるのだが、よくよく考えてみると、みんな私が卑怯のせいだ。卑怯のせいにして、それでカンベンしてもらいたいようなさもしい根性もあるかも知れないが、なんとしても、女房にせいぜい間男しなさいとは云えねえや。なア、小夜子サン。だけど私はつくづく本当の茶のみ友達が欲しいんだ。つまり、本当の愛人が欲しいんだよ。女房はもっと年をとってからでなくちゃア本当の茶のみ友達になってくれる
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