んだから仕方がない。私は女房にたのむんだ。どうかそこを我慢して、茶のみ友達になってくれ、とね。本当の夫婦、本当の愛人同士てえのは茶のみ友達でつきると思っているんだよ、いまの私はね。けれども女房が怒るのは無理がねえや。私だってそんな気持になったのは五十すぎてからのことだもの。どうも、これは、いけねえな。私は女房のことばッかり喋っちゃッて、カンジンの小夜子サンへの気持のことが、出口がなくなってしまっちゃッたよ」
この告白に偽りはないのです。それはぼくが知っています。小さい店の隣り部屋に寝泊りしているんですから、オカミサンが泣いたり怒ったり呪ったりして一しょに寝てくれないのは愛がないせいだと時々ヒステリーを起すのを否応なく聞いていました。
ボクにはトオサンの気持はまだ理解ができません。ぼくが老人になっても理解できるかどうか、怪しいものです。なぜなら、ただ老人だからというわけではなく、現にトオサン自身が自分はむしろ若い時よりも旺盛な性慾があるぐらいだと云い云いしているからです。してみれば、若いぼくにだって理解できない性質のものではなかろうと思われるからです。ぼくにはトオサンの心境は気分的す
前へ
次へ
全73ページ中24ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング