だと、私はこの年になってつくづくこう思うようになったんだね。私にも性慾はある。老来むしろ旺盛になったかと思われるぐらいの性慾があるんだが、どうもそれを愛情のために用いようてえ気持になれなくなったんだ。男女が本当に愛すてえのは、それじゃアないとつくづく思うようになったんだね。私には理窟はわからねえ。ただもうのッぴきならねえ気持でつくづくそう思わずにいられないだけの話だからなさけない。私はいまの女房をシンから愛している。また、敬ってもいる。だから、どうしても、もう女房のカラダをだくわけにいかなくなッちゃッたんだね。私もよせばよいのに、先の女房が死んだあと、いまの若い女房をもらうようなことをしたが、私としちゃア、こいつはつくづく失敗だったと思ってるのさ。いまの女房が好きだから、特にそう思うのさ。けれども、若い女房だから、私の気持に我慢ができない。一しょに寝てくれないのは愛がないからだと云って怒ったり泣いたり、憎んですらいるんだね。どうも気の毒で仕方がないが、私としちゃア、性慾てえのはシンから惚れていない女に限って用いることで、シンから愛しているものには用いることができない気持になりきっている
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