浜へ行きました。トオサンの愛の告白は山下公園をブラリブラリと横切りながら行われたということです。
「ヤブから棒にこんなことを云っちゃアおどろくのは無理もないが、私もね、小夜子サンの恋人がマトモな人なら、私の恋心なんてえものはとるにも足らないものだから、一生だまっていたかったんだ。それはもう小夜子サンを一目見た男という男が惚れてるようなものだから、私なんぞがオクメンもなく白状に及ぶのは笑うべき次第さね。五十五にもなって、女房子供もあって惚れたハレたもないものだが、こうしていったん云いだしたからには、とにかく私の心境――と云っては大ゲサかも知れないが、私の気持というものを一通りきくだけはきいて下さい。実は私は夫婦のチギリばかりじゃなく、男女が愛し合う通例の愛し方、生活の仕方というものに疑いをもっているのだが、人々が恋をする、クチヅケをする、また肉体の交りをむすぶ、それだけを恋愛と思うのは波を見て海を見ないような気がするんだね。波は油を流したようになぐ時があるし、波の底にはざわめくことのない本当の海がジッと息づいている。男女の愛情もそういうジッと変りなく息づいているものでなければならないはず
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