四十円で、円タクをとばしてみようじゃないか。どのへんまで行けるかなア」
「片道ね」
「むろんだ」
「小型で銀座まで行けるでしょう」
そこで二人はタクシーをよびとめて、二百四十円がとこやってくんなと料金前払いで乗りこみましたが、この車がバカにメートルの早くまわる車で、
「ヘエ、二百四十円」
カチッとメートルの文字盤がまわって車の止ったのが、京橋の手前だったそうです。二人はそこでいったん下車しましたが、そのへんは男女が愛をささやくには適当すぎて、トオサンには荷が重すぎた感じでした。
「パチンコもつまらねえし、そうだ。今日は本門寺のお会式だから、でかけてみないか。一度は見ておいていいものだよ」
トオサンは小夜子サンを誘うことだけ甚しく強引だったのです。そこで円タクをひろって本門寺へ行ったそうですが、まだ昼のうちですから万燈もウチワダイコもわざわざ見物にくるほどは出ておらず、二人は本門寺へ参詣して門前の通りの店でクズモチというのを食ってグッタリ疲れました。しかし、ここで勇気をくじくわけにはいきません。
「ここまで来たからには仕方がねえ。横浜へ行って支那料理が食ってみてえな」
とうとう横
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