見込みはなし、私はもちろん気長にそれを待つツモリではいたんだが、小夜子サン、あなたがセラダというバカな愛人をつくったものだから、私はたまらなくなったんだ。肉体なんざアつまらねえものだから、セラダにでも悪魔にでもくれてやっても、それはかまやしませんよ。しかしだね、万人が羨み仰ぎみるようなその肉体をあのセラダのような奴にくれてやる気になるぐらい勇気のあるあなたなら、あなたの魂の方をこの無学のオイボレにくれるだけの勇気だってありやしないかと――そこは助平根性だよ。私もついフラフラと――イヤ、フラフラどころか実にもう夜の目も寝ないで考えに考えたんだが、そのあげくにとうとう腹をきめて、本日のこのていたらくと相なった次第なんだよ。茶のみ友達になってもらえないかと、こう云うわけだが、もちろん私があなたにふさわしいだけの値打のある男だなぞとは毛頭考えていないのさ。ただもう、セラダの奴が肉体の方の友達に選ばれるなら、魂の方は私でも。もしやにひかされて思い決したというわけなのさ」
 トオサンは告白を終って、冬まぢかなころだというのに、ツルリと手でなでて額の汗を払ったそうです。こんなに汗をかくとは思わないの
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