い女学生で、詩人です。日野とは同人雑誌の同志でした。新興成金の娘ですが小遣いも盗みだしたお金もみんなヒロポンにつぎこむらしく、年中文なしでピイピイ腹をすかしていましたから、日野がウチ(阿久津のことです。ぼくは板前見習い兼出前もちです)へつれてきて彼女にタダメシをゴチソウするようになったわけです。彼女の食いっぷりが日野に輪をかけてもの凄くアラレもないこと甚しいので、トオサンは一目みてひどく同情して、もっと食いねえ食いねえというわけ、それをまたガツガツとむさぼり食う、二人の友情がかたく結ばれたわけです。
 トオサンと八千代サンは心を許す親友になりましたが、こまったことに、八千代サンは、本当にトオサンに惚れてしまったのです。アラレもなくガツガツとタダメシを食う小娘ですから惚れッぷりも猛烈でした。ぼくが見ている前だというのに堂々とトオサンに向って自分の処女を自由にしてなどとただならぬ目ツキで口走るものですから、トオサンも狼狽して、
「あなたのような可愛い娘がかりにも私のような者にそんなことを云ってはいけないよ。私はもう五十五のオイボレだし、あなたはこれからという人生じゃないか。若いうちは戸惑う
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