笑い声を発しましたが、実はセラダがうらやましくてたまらぬらしく、ヨダレがたれそうな顔ツキでもありました。
「チェッ! 小夜子サン、真ッ赤になりやがった!」
と、小夜子サンが赤くなってセラダを案内するのを残念そうに見送っていたのです。
来るはずの法本がなかなか姿を見せませんので、ふだんならこんなとき進んでノコノコ自己紹介に現れて巧みに印象づけるのが日野の持ち前の性分であるにも拘らず、この日は毒気をぬかれたのか、料理場の片隅にへばりついたり、ちょッとノソノソ動いてみたり、アブラ虫のような挙動が精いっぱいのようでした。彼は甚しくオッチョコチョイの時と、甚しく人みしりする時と二ツあるのですが、人みしりする時は軽蔑しながらも心服したような気分の時にそうなのかも知れません。彼はセラダに自己よりもやや優秀な同類を見出して、ねたましがっていた様子のようでした。あげくに彼は突然呟きました。
「小夜子サン、セラダのものになるな」
また口走りました。
「セラダの奴、小夜子サンをきッとものにすると思うな」
むろん小夜子サンのいない時を見はからって云ったのです。二度目の呟きが前のよりも確信的な云い方にな
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