ここ打たれました。ここ、ここ」
 と云って、胸を押えて、ピストルを二三発くらったように本当によろめきかねない状態に見えたものです。小夜子サンもさすがに真ッ赤になって物が云えません。急いで彼を用意の部屋へ案内しました。するとセラダも今度は大いにマジメくさって歩きだしましたが、右のポケットを右手で突き上げ突き上げ、お手玉を突きつづけて消え去ったのです。小夜子サンの報告によると、そのポケットの中の物はピストルで、セラダは部屋にドタンバタンと大ゲサに尻もちつくように坐りこむと、そのピストルをとりだして、うるんだような憑かれたような目ツキでピストルをなでまわしたりいじりまわしたりしはじめたそうです。小夜子サンは逃げるように立ち去ってきた様子でした。
「挨拶もしないうちにね。なんのツモリでピストルいじりだしたのかしら」
「挨拶は入口ですんだじゃありませんか」
 と日野が失礼なことを云って小夜子サンを茶化したものです。
「ぶたれました、ここ、ここ、だって云やがらア。ピストル様のもので射たれましたというシュルレアリズム的表現かも知れねえな。たぶん前後不覚なんだ」
 彼はこう云ってキャッという卑しそうな
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