りしていました。なぜ先生かと申しますと、彼は一流のファシズムを信奉しており、その共鳴者が七人いました。そのファシズムは皇室中心主義の右翼とは関係のないもので、権力主義のファシズムです。全てを動かすものは金であるという徹底した金銭中心主義の宗教団体のようなものだと日野は云っていましたが、彼自身もその理論になかば共鳴していたようです。もっとも法本の事務所に働いている人たちは七人の共鳴者のうちの何人かですから、彼も八人目の共鳴者になってその事務所で働かせてもらいたい下心によるもののようでしたが、法本は彼を共鳴者と認めてくれぬ由です。ところが日野は単に打算のせいだけでなく、かなり本心から法本の理論に傾倒している傾きがありました。彼が法本をかなり偉い人と認めていたことは確かです。
二世のセラダがウチへくるようになったのは法本が彼をウチへよんで何かの商談をやったからです。その当日はこの商談の席に加わるために、日野もよばれてウチで待機していました。彼はどこで借りてきたのか金ガワのロンジンの腕時計をつけ、上等のネクタイに真珠のネクタイピンをさしていました。元子爵の令息としてセラダにひきあわされること
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