現はないんじゃないかと思われます。

          ★

 日野は自分がタダメシを食うばかりではと気に病んでかお金持の法本重信をつれてきました。もっとも法本は金づかいがキレイの方ではありません。女中にチップをはずんだこともありませんし、お酒なぞも飲める口でありながら酔うほどは飲まないタチでした。
 法本は経済学の博士だか教授だかの子供で、これを出藍のホマレと申すのかも知れませんが、ぼくらと同年輩でありながら、株で七八百万もうけたそうです。人によっては千万以上とふんでる者もおります。それをまた株でするようなバカはしません。自動車と家を買ったのですが、それを売って、また、もうけました。それが病みつきでブローカーを開業し、さるビルディングに然るべき事務所を持ってるのです。日野はここへ出入りして、時々なにかにありつかせてもらっていたようですが、タダメシに毛の生えた程度のものらしかったようです。
「これぐらい忠実にやってんだから、オレの事務所で働けよぐらいのことを云ってくれてもよさそうだと思うんだけど、云ってくれないのでね」
 と日野はぼやいていました。彼は法本を社長とよんだり先生とよんだ
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