現はないんじゃないかと思われます。

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 日野は自分がタダメシを食うばかりではと気に病んでかお金持の法本重信をつれてきました。もっとも法本は金づかいがキレイの方ではありません。女中にチップをはずんだこともありませんし、お酒なぞも飲める口でありながら酔うほどは飲まないタチでした。
 法本は経済学の博士だか教授だかの子供で、これを出藍のホマレと申すのかも知れませんが、ぼくらと同年輩でありながら、株で七八百万もうけたそうです。人によっては千万以上とふんでる者もおります。それをまた株でするようなバカはしません。自動車と家を買ったのですが、それを売って、また、もうけました。それが病みつきでブローカーを開業し、さるビルディングに然るべき事務所を持ってるのです。日野はここへ出入りして、時々なにかにありつかせてもらっていたようですが、タダメシに毛の生えた程度のものらしかったようです。
「これぐらい忠実にやってんだから、オレの事務所で働けよぐらいのことを云ってくれてもよさそうだと思うんだけど、云ってくれないのでね」
 と日野はぼやいていました。彼は法本を社長とよんだり先生とよんだりしていました。なぜ先生かと申しますと、彼は一流のファシズムを信奉しており、その共鳴者が七人いました。そのファシズムは皇室中心主義の右翼とは関係のないもので、権力主義のファシズムです。全てを動かすものは金であるという徹底した金銭中心主義の宗教団体のようなものだと日野は云っていましたが、彼自身もその理論になかば共鳴していたようです。もっとも法本の事務所に働いている人たちは七人の共鳴者のうちの何人かですから、彼も八人目の共鳴者になってその事務所で働かせてもらいたい下心によるもののようでしたが、法本は彼を共鳴者と認めてくれぬ由です。ところが日野は単に打算のせいだけでなく、かなり本心から法本の理論に傾倒している傾きがありました。彼が法本をかなり偉い人と認めていたことは確かです。
 二世のセラダがウチへくるようになったのは法本が彼をウチへよんで何かの商談をやったからです。その当日はこの商談の席に加わるために、日野もよばれてウチで待機していました。彼はどこで借りてきたのか金ガワのロンジンの腕時計をつけ、上等のネクタイに真珠のネクタイピンをさしていました。元子爵の令息としてセラダにひきあわされることになっていたので、どこかで工面してきたのです。今度のは大仕事だから、と奴めハリキッていましたが、今までに比べればいくらか大仕事かは知れませんが、あの利口者の法本が日野を使う仕事だからタカが知れてるとぼくは軽くふんでいました。
 当日セラダは法本よりも先にウチへ到着したのです。表でヤケに自動車をブーブー鳴らす奴があるのです。二ツも鳴らせばわかるのに、三ツぐらいずつ五回も八回も鳴らすので、さては二世のセラダだなとぼくたちに判ったばかりでなく、鼻持ちならぬキザな野郎に相違ないと見当がついた次第です。
 そこで日野とぼくは帳場のノレンの隙間からこの人物を鑑定がてらのぞいて見ていたのですが、小柄でデップリした身体を重々しくノシノシと現したセラダは、出むかえの小夜子サンと出会いがしらに棒をのんだように動かなくなってしまったのです。
 ぼくらよくよく因業な借金とりにでもめぐり会った時でないとこうはなるまいと思いましたが、セラダは正直に口をアングリあけて小夜子サンに見とれました。
「アナ夕日本一美しいですね。ワンダフルです。ワタクシ世界中においてもアナタのような美しい人まだ見たことありません。ワタクシここ打たれました。ここ、ここ」
 と云って、胸を押えて、ピストルを二三発くらったように本当によろめきかねない状態に見えたものです。小夜子サンもさすがに真ッ赤になって物が云えません。急いで彼を用意の部屋へ案内しました。するとセラダも今度は大いにマジメくさって歩きだしましたが、右のポケットを右手で突き上げ突き上げ、お手玉を突きつづけて消え去ったのです。小夜子サンの報告によると、そのポケットの中の物はピストルで、セラダは部屋にドタンバタンと大ゲサに尻もちつくように坐りこむと、そのピストルをとりだして、うるんだような憑かれたような目ツキでピストルをなでまわしたりいじりまわしたりしはじめたそうです。小夜子サンは逃げるように立ち去ってきた様子でした。
「挨拶もしないうちにね。なんのツモリでピストルいじりだしたのかしら」
「挨拶は入口ですんだじゃありませんか」
 と日野が失礼なことを云って小夜子サンを茶化したものです。
「ぶたれました、ここ、ここ、だって云やがらア。ピストル様のもので射たれましたというシュルレアリズム的表現かも知れねえな。たぶん前後不覚なんだ」
 彼はこう云ってキャッという卑しそうな
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