誰もいねな。さて、四人のいッちキッツイ野郎は誰らという話になると、それが困ったことには、術の種類が違うがんで、野郎どもの顔が一度も合うていねもんだ。オレはアレがいッちキッツイ。ウソこけ、コレらは。もうはや喧嘩になって仕様がねもんだ。そこでオレの村ではみんなが相談して、そんげのことで毎日みんなの者が喧嘩していたがんではいけねから、四人の野郎に来てもろて勝負をつけてもろたらよかろ。タダで頼むわけにもいかねから、いッちキッツイ野郎には金の十両もくれてやれば、あの野郎どものことら、大喜びで勝負つけよてもんだ。さて、そういうことに話がきまって、今日が勝負をつける当日らて。ンナもいいとこへ通りかかったもんだわ。ンナが通りかからねば、誰もンナみてな馬鹿野郎を思いだす者はいねがんだが、ンナの姿を見たもんだ。あの馬鹿野郎も自慢こいて威張ってけつかるがんだが、入れてみれ、面ッ白《シ》ェわ。そうら、そうら、てがんだ。それでオレがンナをよびに来たのらが、オレの本気を云えばンナは仲間にはいらね方が利巧らな。ンナにはとても十両の金はとれぬし、くらすけられて目をまわすのはまだいいが、ノビてしもて息を吹き返さねと来た
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