こそは本朝興信所の元祖であった。若者の心胆が冷えきったまま温まらないのは当然というもの。
そこで十里四方の人間どもが一致団結して鼻介撃滅の壮挙にでたかというと、どこの国でも一番近いところに五列が忍んでいるから始末がわるい。どの村の娘もまるで相談したように鼻介に声援を送り、田吾作はオラとこへ七へん忍んできたれ、お寺のアネサのとこへも忍んで行ってけつかるがんだ、というようなことをスラスラと鼻介にうちあけてしまう。あっちのアンニャもこっちのオンチャも、独身の若者という若者がオ君の聟を狙って魂をぬきあげられているから、アネサどもは怒り心頭に発しているのである。
したがって鼻介の情報は彼の自負通り正確丁寧、水ももらさぬ趣きがあるが、実に出所が厳正、これ以上に真相を語る者の有りうべからざるところから出ているのだから、アンニャもオンチャもアレヨと慌てふためくばかり、口惜しいけれども、どうにもならない。高枕に高イビキで安眠できる者が一人もいないのである。
田舎は算数の大家がそろっているから、
「物は相談だが」
と云って、金包みをもって鼻介を訪ねてくる。金包をひらいてみせて、うまく取り持ってくれ
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