といって、こういうズルイ奴が現れるから始末がわるい。
 だいたい岡ッ引などやろうというのは、天下の悪者、ズルイ上にもズルイ奴にきまっているから、奴めは鼻介と名のる通り、オ君の聟とり話を嗅ぎ当てて、悪計を胸にえがいて江戸を立ってきたのかも知れない。
 目明では暮しが立たないから、鼻介は色々の仕事をしていた。トビのようなこともやるし、頼まれれば細工物を作って納めたり、大工仕事でも、井戸掘りでも、なんでもやる。鍛冶屋の店先をかりて、自分の十手を細工したり、カギのようなものをこしらえたり、何に使うか分らないような妙なものをせッせと作ったりすることもある。あの野郎、十手をあずかりながら、忍び道具をこしらえて泥棒をはたらいているんじゃないか、と疑る者もいるほどであった。
 鼻介が何用でオトキの妾宅へ出入りしているかということが分ると、若者たちはオドロキを通りこして、居ても立ってもいられない恐怖にかられた。
 彼は一日妾宅を訪れて、
「エエ、江戸名物、日本一の大探偵、鼻介でござい。聟殿の身許調査の御用はいかがで。迅速正確、親切丁寧、秘密厳守、料金低廉、あくまで良心的」
 と売りこんだのである。実に彼
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