間の目から見ると、小利巧で働きがあると見えない節がないようだから困ったものだ。妾などというものは魔物であるから油断もできないし、考え方も狂っていようというものだ。
 実直、といえば、それはこの土地の人間の美点のようなものであるが、あの野郎ときては酒をのまないという妙な野郎だ。雪国の人間は生涯ドブロクと骨肉の関係をもつものだが、よそ者のズルイ見方によれば、酒をのまないということが実直という意味の一端をなしているのかも知れない。生き馬の目をぬくとはこのこと、実に油断がならない。
 田舎には盆踊りというものがある。これが田舎のよいところで、女郎だの淫売などという者はない。年々交際を新にし、寝室への門をひらいて、若者の性生活を適正健康ならしめるのである。鼻介の野郎ときては、十手をちらつかせて大ボラを吹きまくるくせに、この土地では色女が一人もないというシミッタレた野郎である。こういう奴は男の面ヨゴシ、天下の恥カキ者、いい若い者の仲間はずれという奴で、バカかカタワでなければ有りうべからざる奇怪事であるが、よそ者のズルイ目から見ると、それも実直という意味になるらしい怖れがある。江戸は生き馬の目をぬく
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