言なのである。
「冬は日が短《み》イじけエろ。起きれてがんね」
「短イじけエもんは、仕方がね。オレが長《な》アごうしてやれね」
オカカは待っていました、と、
「この野郎、こきやがんな。ンナは、この夏のこと、夏は日が長アげエと云うたがん忘れやがったか。さア、カンベンならね」
と半年がけの論争を吹ッかけても全然ムダである。アネサはすでにグッスリねついて、オカカのいかなる熱論もアネサの耳の孔までしみこむスベがないからである。
アネサの働く時間は短かかったが、通算して一人前はたしかに働いていたろう。重い物を運ぶ時などは、アネサが存分に怠けてやっても、そのノロノロとした一度だけで馬並みのことはあるからであった。アネサの食量がやや馬に近いだけ、オカカはタダの人間をヨメに選ぶべきであったのである。
だから、オカカが庄屋のオトトへ泣き言をならべにでかけても、庄屋のオトトは良いところへヒマツブシの慰み物がきてくれたと薄笑いをうかべて、
「ンナトコのアネサ、病気らか」
「バカこきなれや。オラトコのアネサにとりつくことができるような病気がいたら、呼んでもらいてもんだ」
「ンナトコのアネサが丈夫らば、
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