りにクマのアネサをもらうのは理にかなっているという説をまげなかったし、それは実に正当な理論であるから、馬吉もキンカの野郎も言いたい言葉をモグモグのみこんで黙ってクマをもらったのである。
 けれどもアネサはそれほど働いてくれなかった。それはアネサに他意があるワケではなくて、ただ働くことを好ましく思わないだけの理由であった。夏の朝、野良へ行こうぜとオカカにゆり起されると、
「夏は日が長すぎるすけ、まだ、ダメら」
 アネサはそう答えて、あとはいくらゆり動かしても自分の目覚めに適当な時間がくるまで起きてこなかった。更に手を加えて起そうとすると、空俵のように振りとばされてしまうから、オカカはわきたつ胸をジッと抑えなければならない。しかし論争の巧者であるから、アネサの夏の言葉を冬のくるまで胸にたたんでおく。
 冬がきて、まだ暗がりにアネサをゆり起して、
「アネサ、起きれ。起きねとシッペタへ真ッ赤の釜のシッペタくッつけてやるろ」
 シッペタはお尻のことである。アネサは毛虫のような眉毛をビクリとうごかしただけで、
「まら、外はマックラら」
 まら、は、まだということである。ダをラと発音することの多い方
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