充分用意しないうちに、アネサの必殺の気魄に応じて、その瞬間の姿勢のまま一瞬同じ気魄だけ移して構えに変ったから、見た目にはアネサのように充分の構えが出来ているようではないけれども、それがたしかに、構えであるということは分った。まるで小鳥が羽を立てているような、どうも大したものではない。
 見ている方には全然分らなかったが、アネサは誘う力を自然にうけて、いきなり棒をふり下し、ふり払ったのである。その瞬間に、これはシマッタと思った。アネサは知っているのだ。棒にこもるカが正しい力であったか、そうでなかったかを。実にその一瞬、アネサは複雑なことを感じとった。敵を見くびったということ。敵は大変な奴だということ。自分が棒をふり下したのではなく、相手の誘いにかかってふり下してしまったということ。そういうことをさせる相手がとんでもない魔力の持主であるということ。だから、ヒドイ目にあうかも知れないということ。
 しかしアネサは自分の腕を恃んでもいた。少しぐらい力の配分をあやまっても、自分ほどの者がふり下した棒であるから、相手が何者であるにしても、たぶんしャぎ伏せているだろう、と。
 しかし、アネサの棒は空
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