礼用の飾りのついたナギナタを持っているだけだ。ミコサマがナギナタの達人なら伝説に合わなければならないのだが、全然伝説に合ってやしない。イヤハヤ、とんでもないことになった。
 ミコサマが現れるのを見ると、すでに殺気満々たるアネサはさらに一段とひきしまって、もはや殺気は張りさけるばかり。おのずからその極に達して、一言の発する言葉もなく、キッと構える大きな棒。アネサはすでに構えた。
 アネサは腕に覚えがあるのだ。相手をなぐり倒せばいいのである。それには先方がこッちに打ッてかかる先に、相手をしャぎ伏せてしまえばいい。アネサの棒は一丈ぐらいある。ミコサマのナギナタは六尺ぐらいしかありやしない。ナギナタはこッちに届かなくても、こッちの棒は先方へ届くし、アネサのふり払う棒の速さをただのジャベが体をかわせる筈はないのである。
 アネサは怠け者ではあるが、年百年中クワをふり下しふり上げているし、斧で大木を斬り倒すのも馴れている。男の野郎が三百ふり降して斬り倒す木を、アネサは百もかからずに斬り倒すことができる。木を斬る斧にも、斬り下げる要領はあるし、斧の先にこもる力と、それを按配してふり下す握りにかかる力
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