る。オカカがドキドキするのもムリがない。庄屋はアネサを一目見ると、蛇に見こまれたように、冷汗が流れ、からだがふるえて、動けなくなってしまった。
「家老様が来てくれたのは良かったろも、こんげのジサマにあのアネサがふんづかまるもんだろか。家老様に万が一のことがあると、オラの首が危ねもんだが、困ったことになるもんだわ」
と、庄屋は大いに悲しくなった。
ところが、とんでもなく意外なことが起ったのである。
アネサがまだイライラして天狗様の屋敷の門をぶち破らぬうちに、門が静かに開いて、花のような装束の人がただ一人現れてきた。ミコサマだ。ミコサマは細身のナギナタを持っている。本当に真剣勝負をやるツモリらしいのである。
村の伝えによると、調多羅坊のナギナタの手がミコサマからミコサマへと伝授していることにはなっているが、そういう伝説があるだけで、誰も見たものがなく、信用している者もいない。
第一、調多羅坊は全長一丈五尺、刃先の長さだけで六尺七寸五分の天下一の大ナギナタをふりまわしたことになっているが、それに匹敵する大物をぶら下げているのはアネサの方で、ミコサマは一間よりもちょッと長いぐらいの祭
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