カカは、どうも近頃アネサの様子が変だと思っていたのである。用がある筈もないのに、野良をはなれてどこかへ行くから、いったいアネサどこへ行きやがるのだろうと秘かに後をつけて来た。そしてホコラの裏へミコサマをよびだして怖しい約束をむすんだテンマツをみんな見とどけたのである。
「どうも、変テコらて。オラトコのアネサは浮気だけはしねもんだと思うていたが、天狗様のアンニャに惚れていたがんだろか。あんげの熊だか鬼みてのオッカネ女が、誰に惚れても、なんにもならねエもんだろが、面ッ白《シ》ャエことになったもんだわ」
 と、オカカはタマゲて、庄屋のオトトのところへ報告にでかけたのである。

          ★

 庄屋のオトトも、この話にはブッタマゲた。
「ンナ、それ、本気の話らか」
「何言うてるがんだね。オラトコへ来てみなれ。オラトコのアネサは、オラトコにナギナタがないすけ、一丈五尺もある樫の棒をこしらえてるれ。それでミコノサマをしャぎつけよてがんだ」
 しャぎつける、は、叩きつける、ぶちのめすと云うことだ。
「フウン。それは大変なことが出来たもんだ。ンナ、どうしる気らか」
「オラ、知らね」
「オレ
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