ウ云って、野良へでればまるでテンカンを起したような忙しさでクワをふりふり働いてけつかる。ああ、なんたることだ、と思えば、そぞろ無念でたまらないのはオソメである。たしかに、あのとき、ミコサマは鈴をふって舞いながら、ジッと自分ばかり見ていたはずだ。その目がいまでも自分の額にも腕にも背中にもしみついて、かゆいような気がする。どうしてオソメが天狗様のアンニャのヨメになり、自分がキンカの野郎のヨメになったか、どう考えてもワケが分らない。
 馬吉のオカカがラッパを吹くたびに、アネサは実に虚無を感じた。全身の力が一時にぬけてしまう。決して怠けているのではない。シンからねむたくなったり、力がスッカリぬけおちて身動きをするのもイヤになる。誰が一々返事をしたり、喋ったりする気持になるものか。
 しかし、どうしても、オソメが死ぬような気がするのであった。谷を渡るとき、足をすべらして死ぬような気がする。ちょッと病気では死なないようだ。いくらヒヨワに育っても、若い者はなかなか病気ぐらいではくたばらないのが実に面白くないことである。オソメが死ぬ。ミコサマはビックリして、自分が考えちがいしていたことに気がつく。選ぶ
前へ 次へ
全31ページ中16ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング