べからざるオソメを選んだアヤマチに気がつくのである。どうしてミコサマともあろうものがそんな軽率なことをしてしまったか。しかし、今からでもおそくはない。ミコサマは空をきる矢のように畑や森や谷をとんで、クマをむかえにくる。そうでなければならないはずだ。さもなければ、てんで話が合わない。キンカの野郎のアネサは朝ごとにオカカの奴が耳もとでラッパをふいてゆり起すたびに、今日こそは、と考える。オソメが谷を渡りそこなって死ぬ。ミコサマがとんでくる。アネサはだんだんねむくなる。それは快いねむりだ。オカカのラッパがどんなに音色が高くても、もうきこえる筈はない。オソメが谷を渡っている。足をすべらしている。ミコサマが畑や森の上をとんでいるのだ。
ところが思いがけないことになった。オソメが谷を渡りそこなって死なないうちに、ミコサマの方が死んでしまったのだ。こうなれば、もはや取り返しがつかない。オソメはすでに決定的にミコサマなのである。否、すでに彼女はミコサマであった。
どうして、そんなことになったのか。キンカの野郎のアネサは途方にくれた。どう考えてもフシギであった。ただ途方にくれ、考えあぐねるばかりであっ
前へ
次へ
全31ページ中17ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング