鞍馬の天狗の化身であったなどという。そこでこの神社や、ひいては現在の神主のことまで、天狗様と云うのである。
こういうわけで、調多羅坊の大精神は今も脈々と伝わり、天狗様のところでは、アネサが威張ることになっている。天狗様のアンニャはヨメをもらうと、もうダメだ。なぜなら、アンニャのアネサは、花と同時に武器武術を身にそなえているからである。天狗様の実際の化身はアネサなのである。
天狗様のアネサは、否、彼女はすでにミコサマとよばれているから、そう呼ばなければならない。ミコサマは自分がまだ老境に至らぬうちから、つまり自分の生んだアンニャが七ツ八ツの頃から、その年頃の女の子に目をつけて自分の後継者を物色する。アンニャが生まれなくとも、子供のジャベを物色して養女にすることが義務である。アンニャの如きは問題ではない。
かくして選んだ女の子を幼より膝下に育て、みやびな踊り音楽からナギナタの手に至るまで、花も実もあるミコの素養を伝えるのである。
天狗様のアンニャがクマと同じ年頃であったから、彼女が七ツ八ツのころ、ミコサマが彼女ぐらいのジャベを物色していたのである。彼女が不幸な夢をいだいたのは、この
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