時にはじまる。彼女の一生の悲しみは、この時よりはじまった。
一度びミコサマの目ガネにかない、膝下に育てられることになると、大変なものだ。まるで花が咲いたような美しい特別の着物を年中着せられている上に、七ツ八ツから紅オシロイまでつけているのである。第一、用いる言葉も違う。ジャベだのアンニャだのシッペタだのゲェルマッチョ(蛙のこと)などという下賤な言葉は禁止される。こういうモロモロの下賤なることを禁止される特別なアネサはなんとまア素晴らしいことであろうか。
ミコサマは正月十五日と春秋二度の祭礼に舞いを舞う。鈴舞いと云って鈴をふって舞うのであるが、そのアイノテに、ちょッとナギナタを持って現れることもある。しかし、それも舞いの手のようなもので、調多羅坊の奥の手をしのぶことはできないのである。
しかし村のジサ、バサの言うところによると、なんでもないナギナタの舞いのように見えて、しとやかに、やさしく、美しく、あでやかな差す手引く手にすぎないが、この奥には無限の修錬がつまれていて、ミコサマはナギナタの奥儀に達し、そこに至るまでには、実に泣き、血を吐かんばかりの苦しい修業をつまねばならないのであ
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