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それやこれやで、カメは食慾の一念から自然水にたわむれることが好きになり、水練の技術を独学によって体得したのである。何より必要なのは、長息法。もともとカメは常人の倍の余も息が長かったが、長い上にも、長くもぐっていることができると、収穫はぐんと大きく確実になる。息の切れそうな状態では、つかめる魚もつかみそこなってしもう。
胸へ吸いこむ息はタカが知れているが、カメは腹へのむ。堅くギッシリと腹へつめる。この息は重い。それをシッカとたたみこんでおいて、その又上に胸いっぱい吸って水中へくぐる。胸の息は軽くて、すぐ切れるが、腹の息は長くジットリしている。この息でゆっくり魚を追うと、魚もこの落ちついた追跡の手ぶりを見て、もうダメだと感じる。魚は大へん感じやすいのである。観念すると、ゲッソリ気力が衰えて、やすやすつかまえられてしもう。
次に必要なのは、水中の深い底を長くさまよっているための沈身法。人間の生きた身体には浮力がそなわっているから、水底へ沈むためには速力でハズミをつけて、スイスイと水をかき水を蹴っていなければ、水底にいることはできないものだ。何物にも掴まらずに、停止していたり、水の底
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