らした。
「ミソ漬のムスビは、うまいなア!」
 カメの離山の決心は、これでどうやら、ついたらしい。しかし、カメは、もう一つ、条件をだした。
「オレにヨメくれるか。ヨメくれると、町に住んでやってもいいと思うな」
 なるほどカメも二十五六にはなっているはずだ。生れついてのバカでも、ヨメは欲しかろう。多茂平は粋な男だから、カメの飽くこともない大食にくらべれば、この方には親身な同情がもてる。
「お前はよいとこへ気がついた。ヨメはいいものだ。お前の着物もぬってくれるし、お前が木挽《こびき》の仕事につかれて帰ってくると、ちゃんとゴハンの支度ができていて、つかれた肩をもんでくれるなア。ヨメは山の人には来てくれないから、お前はどうしても町に住まねばいかんわい」
 約束をむすんで、山を降りた。バカにマチガイをさせないのには、ヨメをもたせるに限るから、多茂平も熱心にさがして、ちょうど運よく、ほかの男はヨメにもらってくれそうもない売れ残りの下女がいたから、お前カメのヨメになるか、ときくと、大そうよろこんで二ツ返事であった。
 カメはヨメをもらって満足し、木挽や、人足の仕事にでて賃銀をかせぐが、カメが大ぐらい
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