浮きあがって、芋の葉ッパの下に顔を隠して息を吸っていやがるに相違ない。芋の葉ッパを見つけたら、その下を櫂でかきまわせ」
とうとう見破った。けれども葉ッパを見つけて漕ぎ寄せるうちには、もう沈んでいる。今度現れる時は、大変遠い思いもよらないところである。わざとその近くまで漕ぎ寄せてくるのを待って、フッと沈んで遠いところへ逃げてしもう。どうしても、つかまらない。
そのとき土手の上で、この一部始終を見物していた数名の武士があった。家老柳田源左衛門その他の者。遠乗の途中であった。
「コレコレ。その方どもが追いまわしているのは河童であるか」
「いえ。カメの野郎でござんす」
「ハハア。カメが芋の葉の下に隠れて息を使うか」
「いえ。カメという人間でござんす」
「まったくの人間か」
「へえ。もう、親の代からの人間でござんす。オカにいるときはバカでござんすが、水へくぐると河童のような野郎で、手に負えません」
ここの殿様は大変武芸熱心であった。諸国から武芸達者な浪人をさがして召し抱えるのが道楽である。しかし、パッとせぬ小藩だから、天下名題の名人上手は来てくれない。自慢の種になるような手錬の者がいないか
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