は素早く井戸のフタを閉じてしまった。
こうなっては、仕方がない。オカにいると、何をされるか分らない。井戸がなければ、川の中へ逃げこむ以外に手がないから、カメは人々の手の下をくぐって、一目散に逃げる。
「野郎まて! 今度こそはカンベンしないぞ」
井戸のフタをとじておけば、大丈夫。ウンとこらして、ウップンを晴らさなければ、胸のうちがおさまらない。そろってカメの後を追っかけた。
カメは必死であるから、その早いこと。ムジナやウサギを追いまくった執念のこもった脚であるから、オカを走っても早い。町をぬけ、タンボを突ッ走ッて、阿賀ノ川の堤へでると、もう安心、ドブゥンととびこんでしまった。
「野郎め、水に心得があるな。身投げじゃないぞ。だまされるな」
井戸とちがって、川には舟というものがある。もうカンベンはできない。ここで奴めを見逃して引きあげると、つけあがらせてしまうから、是が非でもフンづかまえて、ギュウという目に合わしてやらなければならない。
町内の一同は十何艘という舟をつらねて、こぎだした。
阿賀ノ川は猪苗代湖に水源を発して日本海へそそぐ川である。太平洋側の河川は、越すに越されぬ大井
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