て、ヘタヘタと腰をぬかしたのが、十五人も二十人もいる。
多茂平も生色をとりもどして、
「カメ。たのむ。もう、嘘はこかんから、あがってくれ」
「ダメだ」
「そんなら、井戸の底へザルに入れてミソ漬けのムスビを降してやるから、それを食って、嘘をこかんところを見とどけてから、上ってこい。どうだ。承知してくれるか」
カメは腹がペコペコだから、待っていました、文句はない。
「よし。それなら、上ってやる。五ツでは、今度は、ダメだぞ。今度は二度目だから、十よこせ。見せただけではダメだぞ。食ってから、上ってやる」
さっそくミソ漬けのムスビをしこたまこしらえてザルに入れて綱をつけて降してやる。カメはこれを一つ余さず平らげて、とうとう望みを達したから、この上の慾はない。
「ようし。分った。ただ、とびこんだだけではダメだ。一晩井戸の中にいると、ムスビをくれるな。シメ、シメ。これで野郎どもの考えが分った」
カメは安心してスルスルあがってきた。
「この野郎」
よってたかって、ふんづかまえる。ぶんなぐる。
「アッ」
カメはおどろいて井戸へとびこもうと思ったが、ちゃんと手筈がついている。二手に別れて、一手
前へ
次へ
全30ページ中18ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
坂口 安吾 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング