なって、
「そうだ。井戸へとびこむと、ミソ漬のムスビ五ツくれるぞ。あのムスビは、うまいな。オレが悪いわけじゃない。あの嘘コキども、オレのことを大黒柱だなどと余計なことを教えるから、オカカが怒って、オレのマンマの分量をへらしたのだ。よし。井戸へとびこんで、ミソ漬けのムスビ五ツまきあげてやれ」
共同井戸だから、宵のうちは井戸端がにぎわっている。カメは洗濯のオカカ連をかきわけて、いきなり井戸へドブンととびこんだ。
「カメが身投げしたぞ」
「カメが、又、死んだぞ」
そう何べんも死ねない。一人でもうるさいオカカどもが、つれだって口々に叫ぶから、たまらない。オトト連は耳をおさえて、とびだしてきて、
「なんだ。なんだ」
「なに? 又カメの奴が身投げしたと? さア、大変だ。オレが月番だから、名主のハゲアタマと一しょに御奉行様に叱りつけられる。だから、あの野郎を山からつれてくるのは考えもんだとオレが言ったことだ」
「今さら、そんなことを云っても、仕方がない。これでこの井戸が使えないのが、大変だ。死に場所はいくらもあるのに、ひどい野郎だ」
ワイワイ云っていると、井戸の底から、
「オーイ」
「アレ?」
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