は女房という意味の方言だ。しかし歴とした旦那の家では用いない。裏長屋の言葉である。これに対して、亭主をオトトと云うが、軽蔑しきって云う時には、トッツァという。しかし、トッツァマとマの字がつくと尊敬の意がふくまれる。
カメのオカカはむくれて、
「なんだと。この腐れトッツァ。なにが大黒柱だ。大黒柱というもんは、大きな屋根を支えているもんだぞ。お前、なに、支えてる? たった一人のオラに腹三分マンマ食わせることもできないじゃないか。このカボチャトッツァめが」
こう言って怒られると、どうすることもできない。町内の奴めら、いらぬ世話をやいて、亭主は一家の大黒柱だなどとおだてるから、かえってオカカに怒鳴られるばかりだ。全然、腹のタシにならない。大黒柱とは、なんだ。嘘ばッかり、こきやがる。――嘘をつくということを、カメの城下では、嘘をこくというのである。嘘ツキを嘘コキという。
町内の奴らは、みんな嘘コキだ。余計な言葉を教えるから、又オカカを怒らせてしまった。鋸をひいていても、空腹がしみわたるばかり、かえって、あの日以来、空腹が身にしみて仕様がない。
数日たつうちに、カメはとうとう我慢ができなく
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